1日に3回も心温まった話
同じ日に心が温かくなるエピソードを3回も見かけたことがあったので、その日のことを書こうと思います。
去年10月、私は今の家へ引っ越してきました。下町情緒溢れる庶民的な街です。
まだ7ヶ月くらいの息子を連れて出かけた日のことです。
歴史ある街というだけあってか、最寄り駅も相当に古く、エレベーターやエスカレーターは設置されていませんでした。電車に乗るためには長い階段を上っていかなければなりません。
私は子供を抱えて階段を上りながら、ふと上を見上げると10段ほど先に重そうなスーツケースを抱えて階段を上るオバちゃんが見えました。恰幅の良いオバちゃんで、さすがに重い荷物を抱えながらの階段はきつそうに見えました。
私もそのオバちゃんに続いて階段を上っていきます。後ろから「オバちゃんも頑張れ〜」と思いながら。
そしてオバちゃんが階段の一番上までついたところで、そこには80歳くらいの白髪のおばあさんが待っていました。
「悪かったわねぇ、ありがとうございます。」と、おばあさんは言いました。
するとオバちゃんは「いえいえ!」と返事をして、今度は颯爽と階段を降りて行きました。そしておばあさんは、そのオバちゃんが運んだスーツケースを手に行ってしまいました。
私はその光景を見てびっくりしました。オバちゃんはおばあさんの重い荷物を運ぶためだけに、自分の行き先とは違う方向の階段を"わざわざ"上っていたのです。
このオバちゃんの気配りを見て、私の心は温まりました。
そして私は温かい気持ちのまま電車に一駅だけ乗りました。次の駅は人の多い駅でした。
電車から降りると、少し先に白い杖を持った男性がいるのが見えました。
「こんな混雑の中、あの男性は大丈夫だろうか…」と私が思うや否や、その男性の横にスッと20代前半くらいの若い女性がやってきて「肩お貸ししましょうか」と声をかけました。
男性の声は聞き取れませんでしたが、お願いしますというような素振りをして、その女性に導かれて混雑の中へ消えて行きました。
私はここでも感動してしまいました。私が20代前半だったらあのような行動はとれたであろうか?自分以外の人に気を配る心の余裕を持てている若者だったであろうか?恥ずかしながら出来なかったのではないかなぁと情けない気持ちになりつつも、やはり心が温かい気持ちになりました。
そして最後のエピソードです。
外出の用事を終えて自宅の最寄駅まで戻り電車を降りると、下り階段の前で東南アジア系の外国人ママが呆然と立っていました。
そのママの前はベビーカーを押していて、そこに私の息子より少し大きいくらいの子供が乗っていました。その赤ちゃん以外にも2人、お兄ちゃんとお姉ちゃんらしき子供がママにくっついていました。
同じく赤ちゃんがいる身としてすぐに「あぁ、階段を降りたいんだな」とピンときました。同じような気持ちになったことは私もあります。
子供をベビーカーから降ろして抱えて、さらにベビーカーをたたんで抱えて、階段を降りていかなくてはなりません。それが大変なんですよね。
手を貸したいのですが、こちらも子供を抱えているのでどうしたものか…と狼狽えていると、いかにも下町風情のある見かけをしたオッちゃんがフラッとやってきました。
「下に降ろすんだろ?俺が持って降りるよ!」とオッちゃんは外国人のママに話しかけました。身振り手振りを交えて。
その外国人ママは日本語はわからない風でしたが、おそらくオッちゃんの言いたいことは伝わったようで、そうして問題が解決しました。
知らない人であっても困っている状況を汲み取って、言葉の壁を臆すことなくすぐに行動に移したオッちゃんにまたまた心が温まることとなりました。
1日に3回も心温まる思いやりの瞬間に遭遇して、私はとても良い気持ちになっていました。新しく引っ越してきたこの街の人の温かさ!
都会の駅というと、出産前の私には朝の通勤ラッシュのイメージしかありませんでした。湿度の高い車内、他人との密着、ちょっとしたことで起こる喧嘩、ホームでの衝突、ハイヒールで踏まれる痛み…。ネガティブなイメージが多かったです。
通勤ラッシュを互いに快適に過ごすための暗黙ルール・秩序のようなものもあります。しかしそれは面倒に巻き込まれないために周りに干渉せず自分の気配を消すことが根底にあります。ある意味思いやりなのかもしれませんが、特に心は温まるようなイベントは発生しません。
しかし、この日に私が経験したように駅や電車ではネガティブなことばかり起きているわけではありません。
私も今は赤ちゃん連れで行動していることが多いので、大変申し訳ないことに周りの方に迷惑をかけることがたくさんあります。しかし今住んでいる街では、周りの人がいつも快く助けてくれるし、優しい言葉をかけてくれます。
前に住んでいたところは冷たい街(よく言えば都会的だったのだと思います)だったので、引っ越してからの嬉しいギャップにいつも心が温かくなっています。都内でもこんなに優しくしてくれる場所があるんだなぁ、と。
子供と一緒にいるときは、重い荷物を持ったりハンディキャップのある方を誘導したりという行動は残念ながら咄嗟に取ることができないことも多いのです。
しかし、できる限り私も周りの困っている方を助けたり、気軽にコミュニケーションを取れるような人でありたいと思います。